ブリングハピネスのコンセプトができるまで


「靴下は美術品じゃない。履くものだ」

私たちは「靴下ブランドの立ち上げ」に特化した「靴下製造サービス」を提供しております。

ブランドを営むお客様のゴールは、「靴下が売れること」。それには、売れるデザインが第一ですが、
さらに大切なのは「靴下がリピート購入されること」と考えております。

そのために、「デザイン」と合わせて「履き心地」も両立させる必要があります。

「靴下は美術品じゃない。履くものだ」

台湾で靴下工場を37年間営んできた社長の口癖です。

靴下はあくまでも「履くもの」なので、「外観だけではなく」「履き心地」も重視しなければならない、という考え方を表した言葉です。

靴下を製造するとき、キャラクターなどデザイン性を重視するあまり、「靴下が履くもの」であることを忘れてしまうことがあります。

靴下は試着ができないため、購入しないと履き心地がわかりません。外観が美しければ、初めは売れるかもしれません。
しかしながら、靴下は「履くもの」なので、お客様は必ず足を通されます。

社長は、靴下製造機の前で夜な夜な開発に没頭する時間を愛し、ただひたすらに『履き心地の良い靴下を作る』その一点だけに情熱を注いできました。

私たちはそんな社長の姿勢に心を動かされ、見えない細部まで徹底的に探求をしながら靴下づくりを続けています。
これからもその姿勢は変わることはありません。

以下に、その経緯をお伝えいたします。

藁をもすがる思いで探した台湾工場

2010年、初めて台湾の靴下工場を訪問しました。当時の私は、老舗のぬいぐるみメーカーに勤務。そこで、海外工場で製造する際の「生産管理」や新規工場を発掘する「仕入れ」を担当していました。

私が靴下と出会ったのは、上司から命じられて中国で靴下工場を探したのがきっかけ。会社の靴下の売上と共に、靴下の仕事も増えていきました。

そんな中、ある人気キャラクターの版権を取得しました。
中国の工場にデザインの確認をしたところ「問題ない」(没問題)ということでしたので、サンプル製作を依頼しました。

サンプルが到着すると、全然大丈夫ではありません。工場に尋ねると、「次回修正できます」と言います。
ところが、その後、何度修正しても、仕様書通りのサンプルが上がってくることはありませんでした。

理由を工場に尋ねてみても、担当者もしどろもどろ。私自身も、靴下の経験が浅く、社内にうまく説明ができない事態になってしまいました。

何度も発売日が延期になり、社内から矢のような催促をうけ、半分ノイローゼになりそうになっていました。そのキャラクターが夢にも出てくるくらいでした。

藁をもすがる思いで、生産に対応できる工場を探します。そんな中、台湾に靴下の工場が集まっている町があることを知ります。

やっとのことで見つけ出した工場でサンプルを製作すると、中国で何度やり直してもできなかったデザインが綺麗に再現されていました。

台湾工場に行って、できなかった理由がわかった

工場の最寄りの駅にたどり着くと、全く笑顔を見せない若者が僕を迎えにきていました。社長の息子の工場長でした。

工場に到着すると、社長が待っており、工場を案内してくれました。中国でデザインがうまく表現できなかった理由もわかりました。

靴下編機のスペックが原因でした。台湾の工場には、色数が多いデザインにも対応できる機械が、40数台も並んでいました。

台湾工場の社長から靴下と人生について教わる

台湾工場とつきあって、3年目に入ると大口のオーダーが入りはじめ、台湾工場に数週間単位で滞在する機会も増えていました。
工場長の息子も笑顔を見せてくれるようになりました。

工員のおばちゃんたちと一緒に検品をしたり、仕事をする傍ら、靴下の編機製造ラインを見て回ったりする日々を過ごしました。
お客様を連れて工場に行き、通訳をすることもありました。

夜型の社長につきあって、夜な夜な色々話をするなかで、人生や靴下について教わりました。

社長の言葉一個一個が、心に刻まれていきました。なかでも最も印象に残っているのが、
「ものづくりをする人間は、自らきちんとものを見て、お客様と接しなければならない」という言葉でした。

当たり前のことではありますが、ものづくりを仕事にすることは、あくまでも「モノ」が起点になります。

「モノ」を介さずに、いくら綺麗な言葉を並べてみたところで、肝心の靴下がたいしたことがなければ、全てが無に帰します。

「モノの良し悪しを、自分できっちりと把握したうえで、お客様と接する」

今でも私は、社長から教わったこの言葉を、忘れないように仕事をしています。

工場を次の世代に紡ぎたい。

2013年老舗のぬいぐるみメーカーを退職しました。

「台湾工場の素晴らしさを一人でも多くの方に知ってもらって、息子の世代になっても工場が続けられるようにオーダーを増やす」

ことを目標に、1年間の準備期間を経て、自らの靴下メーカーを立ち上げました。

機械の前に立って夜な夜な開発に没頭する時間を、愛してやまない社長。靴下の品質や品質を上げるための設備投資や仕組みづくりについては積極的でしたが、外に出て営業することを好みませんでした。

息子の工場長も同じ気質でしたので、オーダーを増やすということに対して懸念点がありました。

幸い知人からの紹介を通じて大手繊維商社とのご縁を得ることができました。商社を通じ日本の有名テーマパークの工場監査を受け、合格することができました。

靴下の品質のためなら努力を惜しまない社長の気質も幸いし、厳しい監査を通じて工場はさらに良くなりました。
徐々にオーダーも増えていきました。

2019年工場のサンプル室で仕事をしていると、検品ラインのおばちゃんに声をかけられました。

「耕平。わたしら、もう知り合って10年だね」

おばちゃんが、私との年月を覚えてくれていたことはたまらなくうれしかったです。

工場の顧客リストにおいて、弊社の呼び名は、ブリングハピネスという会社名ではなく、私の名前である「Kohei」です。

私のオーダーをおばちゃんらたちが、心を込めて一つ一つ検品をしてくれていると思うと、それだけでとても暖かい気持ちと安心感に包まれます。

2020年のオリンピックイヤーを迎えてさらにオーダーを増やして工場を安定に導く準備が整えつつありました。

思いもよらない挫折

2020年にコロナ禍がはじまり、2021年2月工場の閉鎖が決まりました。

当時生産管理をしていたベテランスタッフから閉鎖の連絡を受けましたが、どうしても信じることができませんでした。
翌日直接社長から「もう閉じるしかないんだ」と聞きはじめて現実を直視することができました。

工場はコロナ禍の影響で、テーマーパークや観光物産向け靴下のオーダーが激減。運転資金が底をつきかけていました。
不安で目の前が真っ暗になりました。

息子の工場長も同じ気質でしたので、オーダーを増やすということに対して懸念点がありました。

幸い知人からの紹介を通じて大手繊維商社とのご縁を得ることができました。商社を通じ日本の有名テーマパークの工場監査を受け、合格することができました。

台湾人の同僚と二人で職人社長の考え方を引き継ぎたい

「工員への給料が支払えないから前倒しで送金してくれないか」
「編機が売られて運びだされている」

当時生産管理をしていたベテランスタッフから毎日状況の連絡がありました。

彼女が工場にはりついていてくれなかったらどうなっていたかわかりません。
コロナ禍で工場への渡航もままならず、ぎりぎりの状況でした。

弊社貨物の出荷を待って工場は閉鎖しました。

工場が閉じる最後の日までおばちゃんたちが私のオーダーを検品してくれたのです。
納品後の品質も問題ありませんでした。

ベテランスタッフを引き継ぐ

靴下工場に勤めていたベテランスタッフを、弊社が引き継ぐことしました。

彼女は職人社長が初めて雇用した社員です。

靴下の編機を操り製造現場で仕事をするところからはじまり、以来30年以上靴下づくりに携わってきました。

ここ十数年はサンプル作成から出荷までの一連の流れを把握し、オーダーごとに工場内の各部署に細かく指示をだす生産管理の業務を担ってきました。

私が工場と取引を開始して以来、12年間ひたすらやりとりをしてきたのでお互いの性格や癖を理解し合っております。

過去の膨大な事例も、お互いの頭のなかで共有しているのでとにかく話が早いのです。
私自身、靴下の知識は、職人社長と彼女から教わりました。

ベテランスタッフと共に新しい工場との取引を立ち上げる

現在は、同じ台湾にある新しい工場で靴下を製造しています。台湾人ベテランスタッフと取り組んで、5年目になりました。

お客様と、台湾のベテランスタッフの協力で、工場の閉鎖を乗り切ったかいがあり、旧台湾工場と共に積み重ねてきた良い流れを引き継ぐことができました。

お客様のブランドも順調に推移しています。

「靴下は美術品じゃない履くものだ」

台湾人職人社長の工場は閉鎖してしまいましたが、長年培ってきた思想を引き継ぐことはできます。

私たちの目標はシンプルに、私たちに携わった全ての方々に幸せをお届けすることです。

靴下のデザインに惹かれて購入されたお客様が、靴下を履かれて喜んで頂ければリピート購入されます。リピート購入が増えると、ブランドの利益率が向上し、新たな靴下を開発することができます。

開発が増えれば、製造工場のオーダーが増えます。

工場のオーダーが増えると、資材や加工工場などのオーダーが増えます。結果、地域全体が潤って行きます。

私たちはこれからも、靴下を通じて関わってくださる全ての人々に潤いをお届けできるよう、取り組んでまいります。

岩村のこだわり靴下製造ブログ