私たちが靴下を製造するときの「価格交渉」の考え方

靴下づくりの現場では、「価格をどう下げるか」という相談を受けることがあります。

まずお伝えしたいのは、価格を下げることと、価格交渉をしないことは別の話だということです。

価格は、分解して考える

価格を検討する際、私たちは次のような要素を一つずつ分解します。

  • 発注数量
  • 将来性
  • 糸の種類
  • 編み方
  • パッケージ

これらを工場と一緒に整理することで、理論的に価格が下がるポイントを探すことができます。

この方法で下がった価格は、無理なく持続でき、品質への影響が出ることも、ありません。

感情ベースの価格交渉を避ける理由とは。

一方、感情や勢いだけで価格交渉をしてしまうと、工場との関係は揺らぎやすくなります。

「なんとかしてくれませんか」
「他社はこの価格でやっています」

と言った言葉は、誠実な工場ほど返答に慎重になります。

一方で、商売っけの強い工場は表向きは「大丈夫です」と言い、工程のどこかで帳尻を合わせようとします。

その結果、品質が一気に落ちるわけではありません。じわじわと、気づかないうちに少しづつ変化をしていきます。

また、工場との取引が複数のアイテムにまたがる場合、あるアイテムの価格を下げた分が、別のアイテムの価格で調整されることもあります。

その場では気づかなくても、価格を下げた代償を、別の形で支払っているというケースは珍しくありません。

靴下を開発するときのトレードオフの考え方

中国靴下工場の社長をアテンドした話

価格は単なる「利益の数字」ではありません。ときに工場のモチベーションや信頼感を表す指標になることもあります。

以前私は中国の貿易商社の営業代行の仕事をしていました。

その商社の取引先である中国の工場の社長を空港からホテルまで案内したことがあります。

その道中、社長がぽつりとこう言いました。

「あの客は、利益が◯◯あって、いい価格をつけている」

実際の差額は、ほんのわずかです。
それでも、社長はとても嬉しそうな表情をしていました。

価格には、利益とは別に、テストの採点結果のような役割があります。

特に、工場の社長のような職人的な立場にいる人ほど、利益以上に「評価されているか」を大切にします。

中華圏における「朋友圏」という考え方

中華圏には、一度「仲間」として認識した相手を粗末に扱わない。いわば「朋友圏」(友達圏)とも言える感覚があります。

一度朋友圏に入ると身内に近い距離感で付き合うことができます。

友達の友達の紹介を受けた場合でも、友達と同じように接しなければならない暗黙のルールがあります。

信頼関係があるからこそ成り立つ価格

こちらが工場を信頼し、「高くなってもいいから、とにかく品質を重視してほしい」と何度も伝えていると、その言葉はきちんと伝わります。

だからといって、法外な価格を提示されることはありません。

一度「朋友圏」に入ると、その信頼関係を崩すような価格は出さない、という暗黙のルールが働くからです。

工場の言い値で仕事をする代わりに、工場も安心して、気持ちよく仕事をしてくれる。

これは、お互いに信頼関係があってこそ成り立つ関係です。

価格交渉の先にあるもの

価格を下げるかどうかは、単なる数字の問題ではありません。

  • どこを分解して考えるか
  • どこを目指すか
  • 相手との関係性をどう育てるか

こうした選択の蓄積が、長く続くものづくりの基盤をつくるのだと思います。